検査・診断
肺高血圧症が疑われる場合に、どのような検査によって診断や治療が行われるのか紹介します。
診断の流れ
まず、病歴や家族歴、主な症状などの問診や、身体所見などの確認を行います。息切れなどの自覚症状から肺高血圧症が疑われる場合や、症状が無くとも肺高血圧症を合併するリスクが高い膠原病などの病気を持っている場合に、スクリーニング検査と呼ばれる病気であるかどうかを探る検査を行い、肺高血圧症の可能性のある方を見つけ出します。
スクリーニング検査により肺高血圧症が強く疑われる場合には、本当に肺高血圧症であるか、第1~5群のどの分類であるか、重症度はどれくらいか、などの精密検査を行い、肺高血圧症の診断を確定します。
スクリーニング検査・精密検査に
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スクリーニング検査(病気である可能性を探る検査)
スクリーニング検査 |
どんな検査? |
何がわかるの? |
血液検査 |
血液の様々な成分を分析し、その結果から全身の状態を確認するために行います。通常の採血と同じです。 |
肺高血圧症の結果として右心負荷や右心不全が生じると、血液検査の項目では心不全の指標となる検査値(BNPや尿酸値など)が高くなります。 |
レントゲン検査 (胸部単純X線検査) |
胸部全体にX線を照射して平面撮影します。肺に影があるかどうか、心臓の形に変化があるかどうかを調べます。 |
心臓の肥大や肺動脈の拡大から心臓に負荷がかかっているか確認します。また、肺の陰影とよばれる影のような所見から呼吸器の病気などを確認することができます。 |
心電図検査 |
両手首・両足首と胸に電極を付け、心臓の電流の流れを測定します。心臓は電気刺激によって収縮・弛緩を繰り返すことで拍動しています。心臓の形や動きに変化があると電気の流れに異常が表れます。 |
心電図検査によって心臓の形や機能を推定することができます。肺高血圧症によって生じる右心負荷を把握することができます。 |
心臓超音波検査 (心エコー図)検査 |
超音波(エコー)を心臓に当てて、心臓の形や大きさや弁・心臓の壁の動き、血液の流れなどを見ることができます。 |
肺高血圧症に特徴的な心臓の形や、先天性心疾患の有無を確認することができます。精密検査で測定する“肺動脈圧”を推定できるため、肺高血圧症の有無を予測する方法の一つとして活用されます。 |
肺機能検査 |
肺の病気が疑われるときに行う検査です。息を吸ったり吐いたりして肺の大きさや息を吐く勢い、酸素を取り込む能力などを調べます。 |
肺活量などから間質性肺疾患や慢性閉塞性肺疾患(COPD)の病気の診断を行うことができるため、肺疾患に伴う肺高血圧症(3群)かどうかを調べることができます。 |
精密検査
精密検査 |
どんな検査? |
何がわかるの? |
CT検査 |
胸部全体にX線を照射して、身体を輪切りにした画像を撮影することができる検査です。肺に病変があるかどうかや、心臓の形に問題があるかどうかなどを調べます。 |
右心房や右心室、肺動脈の拡大から左心性心疾患に伴う肺高血圧症(2群)や、肺の病変から肺疾患に伴う肺高血圧症(3群)、肺血栓・肺塞栓の有無から慢性血栓塞栓性肺高血圧症(4群)、肺静脈閉塞性疾患(1’群)など、それぞれのPHのタイプの判定ができます。また、より精密な高分解能CT(HRCT)と呼ばれるCT検査が用いられる場合もあります。 |
MRI検査 |
強力な磁石でできた機器の中に入り、磁気の力と電波を利用して臓器や血管を撮影する検査です。 |
左心室や右心室の収縮期や拡張期における容積や、心筋量などから両心機能と右室肥大の評価ができます。そのため、胸部MRI検査では、左心性心疾患に伴う肺高血圧症(2群)や肺疾患に伴う肺高血圧症(3群)かどうかの判定ができます。 |
肺換気血流 シンチグラム |
人体に影響のほとんどない微量の放射性物質を投与し、肺の血流や換気の不具合を専用カメラで撮影する検査です。 |
血管が詰まっているかどうかを判定できるため、血栓が原因となる慢性血栓塞栓性肺高血圧症(4群)かどうかの判定ができます。 |
右心カテーテル検査 |
首、鎖骨、太ももの内側のいずれかの静脈から細い管(カテーテル)を挿入し、右心房や右心室、肺動脈などの血圧を直接計測します。首の静脈からカテーテルを挿入する際は麻酔をかけて検査が行われます。 |
平均肺動脈圧を調べることで、肺高血圧症かどうかの確定診断を行うことができます。また、肺動脈性肺高血圧症なのか、左心性心疾患に伴う肺高血圧症(2群)なのかどうかの判定もできます。
なお、初めて右心カテーテル検査を行う際は、治療方針の決定のために急性血管反応試験と呼ばれる試験も行われます。 |
重症度評価
肺高血圧症の診断の他、治療方針を決定するために重症度を評価します。
重症度の評価は、主に自覚症状の程度に応じてNYHA/WHO肺高血圧症機能分類による評価や、6分間歩行試験の結果などを用いて総合的に行います。6分間歩行試験では一定時間にどれくらいの歩行ができるかを確認します。
肺動脈性肺高血圧症(PAH)ではNYHA/WHO肺高血圧症機能分類による重症度に応じて治療に用いるお薬の種類が選択されます。近年、PAHと診断されてから早い段階からお薬を使用される場合が増え、治療成績も向上してきました。
肺高血圧症機能分類
NYHA心機能分類 |
I度 |
通常の身体活動では無症状 |
II度 |
通常の身体活動で症状発現、身体活動がやや制限される |
III度 |
通常以下の身体活動で症状発現、身体活動が著しく制限される |
IV度 |
どんな身体活動あるいは安静時でも症状発現 |
WHO肺高血圧症機能分類 |
I度 |
身体活動に制限のない肺高血圧症患者 普通の身体活動では呼吸困難や疲労、胸痛や失神などが生じない。 |
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II度 |
身体活動に軽度の制限のある肺高血圧症患者 安静時には自覚症状がない。普通の身体活動で呼吸困難や疲労、胸痛や失神などが起こる。 |
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III度 |
身体活動に著しい制限のある肺高血圧症患者 安静時に自覚症状がない。普通以下の軽度の身体活動で呼吸困難や疲労、胸痛や失神などが起こる。 |
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IV度 |
どんな身体活動もすべて苦痛となる肺高血圧症患者 これらの患者は右心不全の症状を表している。安静時にも呼吸困難や疲労がみられる。どんな身体活動でも自覚症状の増悪がある。 |
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監修医作図