暮らしと生活
肺高血圧症の患者さんは、治療だけでなく普段の生活でも気をつけるべきことがあります。ここでは、気をつけるべき代表的な例をご紹介しますが、詳しい内容は主治医にご相談ください。
お薬・カテーテル
- お薬を飲み忘れたけど、どうすればいいの?
- すぐに主治医や薬剤師に相談しましょう。一度に2回分を飲むことは絶対にやめましょう。
- 色んなお薬を処方されたけれど、全部飲む必要があるの?
- 肺血管拡張薬には異なった作用を持つお薬があります。最近ではこれら異なる作用のお薬を併用することで治療効果が高まる条件がわかってきています。色んなお薬を処方されたからといって不安に思うことはありませんが、気になる場合は主治医に相談してみましょう。
- お薬を飲んでいるときに一緒に食べてはいけないものがあるの?
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肺高血圧症の患者さんの治療に用いられるお薬を服用しているときには摂取を避けるべき食品があります。お薬と避けるべき食品の組み合わせについては主治医や薬剤師に尋ねましょう。
避けるべき食品
・グレープフルーツ(特にグレープフルーツジュース)
(※グレープフルーツ果汁や果実の入っていない“風味”だけのものは摂取可能)
・ビタミンKを含む食品(納豆、青汁、クロレラ食品(※クロレラ:淡水産の緑藻類の一種)など)
・セント・ジョーンズ・ワート(ハーブの一種であり、ハーブティーやサプリメントに含まれている場合があります。)
- カテーテルの挿入時に衛生面で注意することは?
- カテーテルの身体への挿入部付を衛生的に保つことはカテーテル感染を防ぐために重要です。カテーテルは細菌が付着しやすく、衛生状況が悪いとカテーテル感染を起こす可能性があります。強い赤み、腫れ、熱感、膿(うみ)、痛みがある場合は、カテーテル感染の危険があるため、すぐに主治医に連絡するようにしましょう。
- カテーテルを挿入しているけれど、お風呂に入っていいの?
- カテーテル感染やポンプ内のお薬の効果が弱まってしまう恐れがあるため、入浴はできる限り避けましょう。シャワーを浴びるか、カテーテルがお湯につからないよう注意して入浴しましょう。また、携帯用のポンプは防水性ではないため、ビニール袋などに入れて濡れないようにしましょう。
- カテーテル挿入中の外出時に注意することは?
- 外出中に輸液ポンプなどにトラブルが生じる可能性があるため、外出時は念のため薬剤の調合や消毒に必要なものを携帯しておきましょう 。
症状・お薬の副作用
- 息切れを避けるためにはどうすればいいの?
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息切れを避けるには、どのような動作で息切れが起こりやすいのかを知ることが大切です。肺高血圧症の患者さんが息切れを起こしてしまう動作の例を以下に挙げます。
例)息を止める動作:洗顔、会話、排泄など
腹部を圧迫する動作:靴下やズボンをはく
腕を上げる動作:髪を洗う、上着の着脱、高いところの物を取る
反復する動作:入浴時に体を洗う、掃除機をかける など・深くゆっくりとした呼吸を意識する
・息を吐きながら動作を行う様にする
・ゆっくりとした動作を意識する
・こまめに休憩する
- 肺高血圧症治療薬で起こる副作用ってどんなものがあるの?
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肺血管拡張薬を服薬中に生じやすい副作用を以下に挙げます。これらの症状が現れたときは、すぐに主治医に相談するようにしましょう。
頭痛、吐き気、顎(あご)の痛み、下痢、足の裏の痛み、皮膚の赤み、立ちくらみ、めまい、血圧低下、むくみ
- 副作用(頭痛など)がひどいからお薬を飲む量を減らしてもいいの?
- 主治医に処方されたお薬は自分の判断で途中で中断したり、飲む量を減らしたりすると、症状が悪化する恐れがあり危険です。自己判断でのお薬の中断や減量は絶対にせず、まず主治医に相談しましょう。
- 頭痛が辛いけど、何か対処法はないの?
- 肺血管拡張薬の副作用の中で頭痛は特に多いです。頭痛が起きた際は氷枕などで頭を冷やすことで、頭痛が軽減する可能性があります。また、複数の肺血管拡張薬を服用している場合、薬剤の服用時間をずらすことでも頭痛が軽減される場合があります。 しかし、いずれの場合も必ず主治医や薬剤師と相談の上で副作用を軽減させる方法を考える必要があります。
- トイレに行く回数が減ったけれど、大丈夫なの?
- 尿量が減った、体重が増えた、身体がむくむ、などの症状が重なった場合、お薬の副作用や、心不全が悪化している可能性が考えられます。その様な場合はすぐに主治医に相談しましょう。また、この様な症状を見逃さないためにも普段から毎朝食事前の決まった時間に同じ条件で体重を測定し、記録するようにしましょう。
- 乗り物(自転車や車)の運転はしてもいいの?
- 副作用でめまいや貧血、視力低下などを起こす恐れのあるお薬があります。自転車や車の運転を含め危険をともなう機械の操作、高所作業の際は注意が必要です。
食事
- 水分を摂り過ぎてはいけないの?
- 水分の摂り過ぎはむくみの要因となるなど、肺高血圧症の症状を悪化させる恐れがあります。
- 塩分を摂り過ぎてはいけないの?
- 塩分を摂り過ぎると、体内の塩分濃度を下げようとして水分の排泄が抑えられるためにむくみの要因となります。食事の内容は医師・栄養士とよく相談しましょう。
家庭での生活
- 家事などの日常動作で注意することは?
- 急に立ち上がったり腰をかがめたりすると、血圧が急に変化し失神発作を起こす可能性がありますので注意しましょう。また食事の後にすぐ入浴したり、動いた後にすぐまた次の動作を行ったりしないようにしましょう。階段の上り下りはできるだけ避け、マンションなどではエレベーターを活用しましょう。
- お手洗いで注意することは?
- 家庭では、トイレは和式より洋式の方が身体への負担は少ないでしょう。 また、一定の姿勢で立ち続けたり座り続けたりすると血液のめぐりが悪くなり、血液が固まりやすくなるリスクがあるので避けるようにしましょう。
- 部屋の温度調整で注意することは?
- 急激な温度差は心臓に負担がかかります。寒い時期は小型の暖房器具を活用するなどして、家の中の寒暖差を少なくしましょう。
- 入浴するときに注意することは?
- 入浴するときは心臓に負担がかかる熱いお湯を避け、長湯はしないように心がけましょう。 また、浴室が寒いときはシャワーでお湯を出して浴室を暖めてから入浴するなどの工夫も効果的です。
カテーテルによる治療中の方は、シャワーを浴びる際にも注意が必要です。詳細は「お薬・カテーテル」をご覧ください。
- 睡眠時に呼吸が苦しいときはどうすればいいの?
- 呼吸が苦しい場合は、上半身を斜めに起こした姿勢にすることで呼吸を楽にすることができます。電動ベッドを活用したり、首の後ろや背中に枕やクッションをあてたりするなどの工夫も効果的です。
学校・仕事
- 学校には行けるの?
- 肺高血圧症であるため学校に行けないというわけではありません。現時点の症状や病気の程度によりますので主治医とよく相談し、学校には事前に病状などを伝えておくとよいでしょう。
- 仕事をやめないといけないの?
- 上記の学校と同様に、肺高血圧症であるため仕事をやめなければいけなというわけではありません。主治医とよく相談し、仕事を続ける場合は会社や上司の理解を得た上で無理をしないようにしましょう。
運動
- 運動してはいけないの?
- 運動すると心拍数や肺動脈圧が上昇し、肺高血圧症の病状が悪化する可能性もあります。場合によっては失神や呼吸困難などを起こす恐れがあるため、主治医に相談するようにしましょう。
- 全く動かないほうがいいの?
- 運動を過度に避けると体力や筋力が落ちてしまうためよくありません。主治医と相談し、許可を得た上で、こまめな休憩を意識した散歩などの軽めの運動から始めましょう。その場合、決して無理をせず、“軽度の息切れが持続する運動”は避け、めまいや動悸、胸の苦しさを感じたらすぐに中止する必要があります。 パルスオキシメーターを治療で使用されている方は酸素飽和度(SpO2)と脈拍数を測定しながら運動し、主治医に指示された心拍数などの数値を確認しながら運動の継続や中止を判断しましょう。
- 学校で体育の授業を受けてもいいの?
- 体育や部活動など、子供の運動は大人に比べて活発な活動が多く無理をしがちです。主治医、学校に相談し、しっかりとした理解と協力を得ることが重要です。保健室と連携し、急な症状の変化にも慌てずに対応できるような態勢にしておきましょう。
旅行・飲酒・喫煙
- 旅行はしてもいいの?
- 主治医に旅行の計画を伝え、どれくらい体に負担がかかりそうであるかを判断してもらい、許可を得るようにしましょう。旅行中は疲れないように無理のないスケジュールを立て、旅行の日数分と予備を含めた薬を用意しましょう。通常、電車やバス、車での移動はあまり問題にはなりませんが、遠出をする場合は現在通院中の病院やご家族の緊急連絡先、主治医のお名前や服用中のお薬の一覧を書いたメモを携行しましょう。
- 飛行機には乗れるの?
- 飛行機に乗ることはできますが、飛行機の利用や高地への旅行は酸素濃度が低くなるため注意が必要です。あらかじめ主治医に相談しましょう。酸素ボンベや持続静注用ポンプなどの医療機器を使用されている場合は、事前に十分病院で確認し、必要に応じて航空会社に問い合わせましょう。
- お酒を飲んだり、タバコを吸ったりしていいの?
- 飲酒や喫煙によって肺高血圧や心不全が悪化する可能性がありますので、必ず主治医の指示に従ってください。
その他(妊娠、出産、感染症、緊急時)
- 妊娠や出産はできるの?
- 妊娠や出産は心肺への影響がとても大きいので、肺高血圧の病気の程度によって事情は変化します。また妊娠中には避けたほうがよいお薬があります。妊娠前、妊娠した際はできるだけ早く、主治医とよく相談しましょう。
- 感染症について気をつけることは?
- 風邪やインフルエンザなどの呼吸器疾患は肺に負担をかけるため、同居家族も含め、流行期が近づいたら主治医にご相談ください。感染症の流行時には人ごみを避け、マスクの着用や外出後の手洗い・うがいを心がけましょう。
- いつ予防接種すればいいの?
- 予防接種の時期に関する情報は下記厚生労働省のホームページをご参照ください。
厚生労働省ホームページ⇒
緊急時の備え
- 緊急時はどうすればいいの?
- 緊急時にはかかりつけの病院に電話しましょう。また、緊急時の対処法が書かれた緊急時連絡カードを作成し、常に携帯しましょう。服用した薬や体調などについて、毎日の状態を小まめに記録しておきましょう。
引用著書:
肺高血圧症の看護~急性期治療から在宅管理まで~
監修者:中西宣文(国立循環器病研究センター研究所 寄付プロジェクト部門 肺高血圧先端医療学研究部部長)
編集者:伊藤文代(国立循環器病研究センター 看護部長)
発行者:沼田稔
発行所:株式会社医薬ジャーナル社
もう肺高血圧なんかで悩まない!~岡山医療センターの取り組みから~
監修者:松原広己(独立行政法人国立病院機構岡山医療センター臨床研究部長)
編集者:宮地克維(独立行政法人国立病院機構岡山医療センター循環器科)
発行者:松岡光明
発行所:株式会社メディカルレビュー社